朝日新聞の関係者のみなさまへ:今話題のキャンセルカルチャーについて

以下の記事、覚えていらっしゃるでしょうか?

【東京外大のゼミ、「純ジャパ」問うアンケート 学長謝罪】

このゼミ企画は、外大の学部3年生の特に両親が外国にルーツを持つ日本人学生を中心に発案され、彼らが生後今まで受けてきた社会差別の原体験を元に、これから更に強くなるだろう日本社会の隠れた差別構造を、国際比較しながら、学術的に炙り出すものでした。

しかし、その集客の告知のタイトルのキャッチ(”純ジャパ””混ジャパ”)と、社会調査の一環として実施したアンケートの文面の一部が過激だったことで炎上し、早速御社から取材を受けました。その記者の方には、まだ途中であったゼミ発表の作業にも参加してもらい、後日、以下の記事となりました。

【「純ジャパ」イベントがあぶりだした、私の中の「潜在的な分断」:炎上を「傍観」していて気づかされました】


ゼミ発表の当日は、盛況でした。当日に配布した研究資料は、学部3年生のグループ発表としては、大変に完成度の高いもので、これからの日本社会の行方を占う貴重な資料になっていると思います。もしご連絡いただけるのなら、一式を贈呈いたします。

ちなみに、ゼミ指導教員として、”炎上”のお詫びを含む、私の冒頭の挨拶は、ここにあります。


同じく”炎上”に興味をもった毎日と読売の記者も、発表当日に招待しました。彼らは、このゼミ企画の真意を理解してくれたのでしょう、この炎上に群がった正義感に燃えたクレイマーたちに忖度し、炎上をさらに炎上させることは、「社会問題研究の自由を萎縮させる」逆発(バックファイア)の可能性を理解してくれたようです。記事にすることはありませんでした。

しかし、御社においては、当日に二人の記者(そのうち一人は、既にに満員であったのですが、どうしてもということなので受け入れたのですが)が参加したにもかかわらず、です。

後日、この騒動に関係した御社の記者のお一人から以下の文面のメールをいただきました。御社も一巨大組織ゆえ、一枚岩でないことは重々承知しております。

あのような形でデジタル上で先行配信されることは、私もまったく知りませんでした。担当記者より相談を受けた際、私は炎上したアンケートの設問部分にのみフォーカスしようとしていることを懸念し、「外国にルーツがある人が日本社会で直面する課題」について研究発表しようとしていたゼミ生たちの課題意識をきちんと伝えるように指摘しておりました。一部で言及されておりますが、ゼミ生たちの目的や意図を伝えるには、あまりに説明足らずですよね。同じ新聞社とは言え、部もデスクも違う中で、こちらが執筆に関与できず(コメント取りだけを依頼され)、結果として伊勢崎先生の信頼を裏切るようなことになってしまい、本当に忸怩たる思いです。申し訳ありません。私としては丁寧に取材を積み重ね、続報でさらに社会に問う内容の記事にしたいと思っていました。伊勢崎先生、ゼミ生が本当に社会に問いたかった内容についても、再度触れさせて頂きたいと思っておりました。社会部に利用されるままに先生の信頼を失い、このような形になってしまったこと、お詫びのしようもございません。


この騒動から既に一年以上経ち、この間、僕は敢えて、それ以上の釈明をせず、沈黙を守ってきました。それは、大学当局の方針と同様、学生の安全を第一に考えてのことであります。今は、既に、彼らは無事に巣立ち、社会の一員になったので、沈黙を破りたいと思い、このメールを認めた次第です。

特に、僕が若い時にかかわった部落解放運動で当時、組織を二分するくらいの懸案であった、「寝た子を起こせ」vs「寝た子を起こすな」の問題が、現在も激しく問われていると思うからです。これは、差別の撤廃と表現の自由との関係性にもかかわってきます。

僕が今まで別の機会で問題提議してきたように(伊藤真弁護士との二つの対談(1)(2)をぜひお読みください)、日本には世界で唯一、「ヘイトが起因するジェノサイド・集団殺人の首謀者を正犯として断罪する法体系が不在」です。差別を予防するための手段は、必然的に、表現への過敏で過剰な統制に向かうしかありません。

これは、やっとこの東京オリンピックを機に日本でも話題になってきたましたが、「キャンセルカルチャー」にも直結する問題です。

キャンセルカルチャーとは、御社AERAの記事で【個人や組織、思想などのある一側面や一要素だけを取り上げて問題視し、その存在すべてを否定するかのように非難すること】とあります。

これを今回の僕の騒動に当てはめると、【本筋で論破できない個人の、本筋とは違う側面で攻撃できる要素を取り上げて問題視し、その存在すべてを否定するかのように非難すること】になるでしょうか。ここでの「本筋」とは、お察しのとおり、9条護憲を批判する僕の憲法論です。この炎上の中では、「あの伊勢崎のゼミ活動」という喧伝がなされたことを、明記しておきたいと思います。

御社がこの炎上に加担した動機が、それでなかったことを祈ります。

以上、長くなりましたが、取材のお誘いをお待ちしております。

伊勢崎

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